ノアの洪水は、もっと古い時代に起こったことだと考えればよい

 多くの神話が洪水伝説を持っている。だから、大洪水が起こったということが、人類の記憶として残っているのだと思う。

 海水面が現在より高く、アフリカの北部の陸地が、水に浸かっていた時代もある。そういう時代に、大きな台風や津波がきたら、そうとう恐ろしい災害が起こるだろうし、印象も強い。津波が来るときに、警告したのに避難しなかった人が犠牲になった可能性もある。

 モーセが律法書で書いた人類の誕生時期は単純に間違っていると思われます。モーセは、おそらく、文字が書かれ始めた時代を、人類の誕生時期だと考えたのでしょう。

 資料は過去にさかのぼればさかのぼるほど、正確性は失われ、歴史は伝承となっていきます。伝承は、真実を含んでいますが、それは、寓話的に表現されるものになります。伝承は、単なる作り話ではなくって、真実を含んだ寓話なのです。

 聖書の価値は、絶対的な真実性ではなくって、同時代における相対的な真実性です。

 あなたには、自分が1才〜2才の記憶がありますか。おそらく覚えていないでしょう。でも、親からあなたが、どのように振舞ったかを聞くはずです。それが、自分自身に関する伝承です。

 昨日のことは覚えているはずです、けれども、昔のことになればなるほど、正確性は失われ、寓話的な要素が強まります。

 どうか、創世記を読むときに、徹底的に馬鹿にして読むのはおやめください。歴史の記述というのは、伝承に連なっているものであり、そういうものなのです。